REPORT/COLUMN レポート/コラム
オーストリア・ナショナルチームコーチ河野恭介 interview
2021-01-19 (火) 19:16
アルペンレースの選手を引退後、JOCのスポーツ指導者海外研修事業を利用し、アルペンスキー王国オーストリアチームでの研修を経て、今シーズンからは正式にコーチとして活動する河野恭介。マルセル・ヒルシャーの引退後、昨シーズンは苦戦も続いたオーストリアチームであったが、今シーズンはスラロームのランキングで1位、2位を占めている(2021年1/19現在)。アルペンスキー王国としての強さをふたたびみせるオーストリアチームの一員として活動する河野恭介に今の世界のトップシーンを訊いてみる。
SnowMAP-現在のオーストリアチームの雰囲気はどうですか?
河野恭介-いい感じです。ただ落ち着いてはいます。レースが終われば、すぐに次のレースの準備です。
SnowMAP-今シーズン、スラロームについては2本目の順位の入れ替わりが激しいようですが?
河野恭介-これまでのレースでは、すべてが氷の斜面というわけではなく、アデルボーデン以外では気温も高く、難しい条件でした。それも含めてのアルペンレースではありますが、荒れる要因にはなっていると思います。コースセットがそこまで難しくなくても、しっかりと溝ができたり、斜面も荒れやすいので、そういった要因で順位の入れ替わりが起きやすくなっています。
世界最高峰オーストリアチームのコーチとして活躍する河野恭介
日本人がその一員として活躍する姿が誇らしい
SnowMAP-そのような状況下でもマルコ・シュワルツ、ミハエル・マット、マヌエル・フェラーは安定した滑りを見せていますね。
河野恭介-そうですね。技術的な部分で対応力といいますか、しっかりと積み上げてきたものが彼らにはあります。また、今シーズン始まるまでに、いろいろなシチュエーションのなかでトレーニングができたこと。オーストリアチームの取り組みとしてやってきたことが大きいと思います。
SnowMAP-昨シーズンはスラロームでのリザルトはよくありませんでしたね。
河野恭介-3回表彰台と第1シードにも2人というなかで、よくありませんでしたが、すごく悪いというわけではないというのがチームとしての印象です。今シーズンのスタートはかなりいいです。チームが一丸となってトレーニングからチャレンジしてきた結果とヒルシャーの引退後、さまざまなプレッシャーの中での選手のがんばりというところを強く感じています。いまはマテリアルの準備も含めて、やってきたことが間違いではなかったとコーチの中でも話しています。
SnowMAP-スラロームの国別ランキングでは現在1位ですが、GSも順位を上げたいところですよね?
河野恭介-GSは課題となっています。GSについては、まず体の強さがないとワールドカップでは勝負できません。若い選手はまだ体ができあがっていないところもありますが、ノルウェイチームにかんしては、トレーニングを始めるのも早く、ジュニアからウェイトトレーニングの準備が始まっています。オーストリアのジュニアよりも1~2年早く土台を作り始め、ある程度体が成長した段階で、しっかりとしたトレーニングを始められるような環境、プログラムがそろっています。そういったところが若いうちからGSでも活躍できる大きな要因となっているのではないでしょうか。それはそのまま、現在、日本がGSで勝負できていない要因になっているのではと思います。欧米とくらべて、体の大きさは日本人には不利かもしれませんが、ヨーロッパでも体の小さい選手はいくらでもいますので、大きさよりもやはり強さですね。日本人は器用だとか、俊敏だとか技術力が高いとか、そういう話をしている場合ではないと思います。
SnowMAP-今シーズンはノルウェイチームの強さが目立っていますが?
河野恭介-特にGSが強いですね。先ほどお話したジュニアからの育成。そして彼が成長し、2年前くらいにヨーロッパカップで上位を独占してきたメンバーがワールドカップメンバーに引き上げられ、うまく合流し、しっかりと成績を収めていますね。
現在スラロームランキング1位。アデルボーデンでのレースで優勝したマルコ・シュワルツとのオフショット
選手たちとのコミュニケーションからも信頼された様子がうかがえる
SnowMAP-JOCによる派遣からオーストリアチームと正式なコーチ契約を結んだ今シーズン、ご自身の活動に変わってきた点はありますか?
河野恭介-実は、昨シーズンからFISにオーストリアチームのコーチとして登録してもらいました。それでも今シーズンから任せてもらうことは増えました。例えば練習バーンのセットもやらせてもうようになりました。コーチも練習のなかでセットを変えることが多く、そのローテーションのなかに組み込んでもらえるようになりました。先日のアデルボーデンのレース前の練習は自分もセットを担当しました。そういった中で結果がでてくると素直にうれしいですが、胸をなでおろす気持ちです。これでダメだったら自分も次はないのかと思います(アデルボーデンではマルコ・シュワルツが優勝)。ザグレブでのレースでもひとつ、セクションのポジションを担当しました。スタート前の選手にコースの状況をレポートするのは本当に緊張します。
SnowMAP-具体的にはどのような指示をおくるのでしょうか?
河野恭介-コースが荒れてきたときなど、ネガティブにならないようにどう伝えるかなどですね。ただ気つけろと言うのか、斜めになっているから、しっかりと外足にのせていけと伝えるのかでだいぶ違ってくると思います。すべての情報のなかでどれを伝えるか?または、少ない情報のなかでどれだけ伝えられるかというのは大きな違いとなると思います。そういった部分はオーストリアチームとして活動するなかで勉強になっています。
また、実際のレース以外でもアルペンレースは他のスポーツとくらべて分析できる情報が少ないという面があります。現状ではタイムと映像のみです。そこをできるだけ多く積み重ね、選手、コーチ、サービスマンと共有するようにしています。
SnowMAP-まだ大事なレース続くワールドカップでオーストリアチームとしてどのような活動となっていくでしょうか?
河野恭介-昨シーズン、スイスに国別タイトルを取られ、オーストリア国内でも批判がありました。もちろんそこは取りにいきたいと思います。そのために何をするかと言われれば、ひとつひとつのトレーニングのクオリティをあげる。レースに向けてすべての面で最善の準備をするといったところの積み重ねでしかないと思います。それをしっかりとやっていくというのは自分自身だけでなくチームとしての共通認識です。これまでと同様にハードワークをやり続けるという点につきると思います。その積み重ねが結果となってあらわれることを願っています。
SnowMAP-選手はもちろんですが、ご自身のケガや健康にも気をつけて残りのシーズンを応援しています。
河野恭介-ありがとうございます。がんばります。
世界トップクラスのオーストリアチームのコーチとして活動する河野恭介。王国のなかでひとり日本人がコーチの一員としてやっていくのも相当なプレッシャーもあるであろう。そして、世界最高峰の舞台でしか見ることのできない景色や経験。世界のトップシーンで戦うにはどうしたらよいのか!?彼がいま経験しているすべてが、近い将来、日本のアルペンシーンを世界のトップへと近づけてくれることに期待したい。
2021年1/11インタビュー収録より
写真提供:河野恭介